花帰葬15お題

02.親子 - 与える温もり

玄冬が畑仕事から帰って来ると、何故か物凄い笑顔で黒鷹に迎えられた。
数日前から姿を見せていなかったものだから、ほんの少しばかり、玄冬は驚いていた。まぁ、黒鷹が神出鬼没なのは今に始まったことではないが。
「おかえり、玄冬」
「あぁ…。お前、今までどこに行っていたんだ…?」
「いや何、ちょっと仕事をね」
「……」
「それより、挨拶は無いのかな?」
言われて、玄冬は一瞬考えてから、ぶっきらぼうにただいま、と言った。
これから種を植える季節だから、畑を耕していたのだ。農耕民族の血が騒ぐのだろう。
手を洗う玄冬の背後を、まるで金魚のうんちのごとく黒鷹が付いてくる。まぁ、それはいつものことなのだから、玄冬は特に気に素様子も無かったのだが。
慣れた様子で調理器具を出そうとする玄冬を、黒鷹は慌てて止めた。
「なんだ…」
「たまには外食なんてどうだい?」
「…は?」
なにを馬鹿なことを言ってるんだ、こいつは。とでも言いたげに黒鷹を見やる玄冬に、内心凹みつつも黒鷹は笑顔を見せた。
「今日は君の誕生日だろう?」
「……あぁ、もうそんな日か…」
ふとカレンダーを見て、玄冬は調理器具を仕舞った。
この世界に、玄冬の誕生日を祝おうと思う人間は、きっと2人だけだろう。黒鷹と花白の。
誰もが玄冬の誕生を祝わないから、本人ですら忘れている有様だ。
黒鷹はこっそりとため息を付くと、にっこりと笑った。
「ちびっこの邪魔が入る前に、ね」
「…後でフォローするんだろうな、ちゃんと」
「はっはっはっ、よしてくれ給え。私のちびっこの相手が出来るはずが無いだろう?」
「……」
玄冬が半眼になって睨むと、黒鷹は困ったような顔をした。
「だがねぇ」
「花白もどうせ来るだろうから、待ったほうが得策だろう」
「……仕方ないねぇ」

そして程なくして、大量のプレゼントを持った花白が玄冬の家を訪れた。
呆れた様子の黒鷹を見た花白が剣を振り回して暴れ、結果玄冬に怒られたのは明白のことだろう。